不動産の経営学~ファイブフォース分析で不動産賃貸業を考える~第2回

○ポーターのFive Force分析

 ポーターのファイブフォース分析とは、事業環境を取り巻く五つのフォースすなわち力、圧力に企業はさらされるというものです。ここで言う企業というのは大きな会社という意味ではなく、個人事業主、中小企業から大企業まで全ての事業者のことを指します。前回は競合からのフォースを検討しましたが、今回は買い手からのフォースすなわち交渉力について考えたいと思います。交渉力は、どのような要因で決定されるのでしょうか?

○不動産賃貸における買い手

 不動産賃貸業における買い手とは、入居希望者または入居者を指します。入居希望者からの交渉力といえば、やはり家賃を下げて欲しい、または敷金礼金といった初期費用の。減額交渉が主なものになるでしょう。このような交渉に対してどのように対応していくかということが一つの大きなポイントになるわけです。これらにうまく対応できる能力を持っていることが、望ましいということになります。

 これは単純に断るということも可能ですが、断れば次の入居希望者がすぐに現れると限りません。。しかし次にも入居者がもしくは入居希望者がすぐに現れるようなプロモーション活動、もしくは物件の魅力があるのであれば、現れた一人の入居希望者のプレッシャーに負けて条件を飲む必要はなくなります。相手の交渉力に対抗する力とは、どのように発生するのでしょうか?

○買い手が少ない場合

買い手が少ない場合は、買い手の交渉力が強くなります。供給が需要を上回り、商品やサービスが過剰供給されている状況となりやすいためです。そして、交渉が決裂した場合、他の買い手を探すことが売り手にとって困難になるからです。閑散期の入居希望者は、買い手が少ない状況で市場に入ってくることになるので、その時点で交渉力を持っています。繁忙期を過ぎて空室を有する大家にとって、閑散期に現れた入居希望者は少ない買い手だからです。このような場合、自ずと交渉で強いのは入居希望者、弱いのは大家という構図となることが多いでしょう。

○商品やサービスの差別化がされていない場合

 商品やサービスが差別化されていない、すなわち不動産賃貸業や不動産投資では、物件の差別化がされていない場合、他の物件と比較され、家賃や初期費用の差しか買い手が見出す事ができなければ、買い手は交渉力を増すことになります。他の条件が同じであれば、どの物件に決めるかという意思決定に影響を及ぼす要因が価格のみになります。ただし不動産の場合は、価格以外の条件が全く同じということはなく、立地や築年数などたとえわずかでも違いがあるので、これをアピールし、理解を得られれば、契約を勝ち取ることができます。また、設備を更新、追加することで物件の魅力を向上させることもできます。

○買い手の切り替え、転注難易度

 買い手の切り替え、転注容易性とは、買い手が、自社ではなく競合他社からの購入に切り替えることの難易度を指します。同じ商品を扱っているのであれば、Aのお店から買う場合と、Bのお店から買う場合、どちらを選ぶでしょうか。店までの距離が近い、価格が安い、営業時間が遅い時刻まで営業しているなどの要因が考えられますが、いずれにせよA店とB店は同じ商品を扱っている限り競争は続くことになります。不動産賃貸業に当てはめると、これは、引っ越しを容易にすることができるか、ということになります。引っ越しをするためには次の物件を探さなければなりませんので、その時間や、次の引越し先物件を契約するための初期費用などが、切り替えを困難にしていると言えます。今後、引っ越し費用が低価格化すれば、(労働人口減少により、引越業に従事する人や企業が少なくなれば、必ずしも低価格化が進むとは限りませんが)住まいの切り替え難易度は、容易なものとなり、買い手の交渉力は、より強くなり、大家間の競争はより激しくなるでしょう。

○買い手のコスト重要性が高い

これは買い手が、購買の意思決定を行うときに、様々な要因でその決定を行うわけですが、買い手にとってそのコストが重要であればある程、交渉力が強くなります。賃貸物件を選ぶ際、勤務地までの時間や周辺環境などが重要であると考えている人にとっては、交渉のパワーは小さいことが多くなります。不動産という特性上、気に入った物件があった場合でも、職場までの距離や周辺環境に難があってもこれを交渉で解決することは困難であり、そもそも交渉にならないからです。しかし、物件を探している人にとって、家賃や初期費用が重要である場合は、他の条件は適合しても、これに難があれば交渉が入ります。価格に関しては双方が交渉のもと合意すれば解決可能だからです。

 これらに対抗するには、交渉相手に立ち向かうというよりも、どちらかと言うと入居希望者の値下げ要求を飲んだとしても経営できるだけの経営基盤を築く、もしくは築いていること。そしてその他の、例えば現在の入居者の希望で出てきたもの新しくできたもの例えば wi-fiを無料で導入して欲しいとか、宅配ボックスがあると嬉しいといったプラスアルファの付加価値を追加する要求であったり、例えば共用部の清掃のクオリティーだったり、電灯の明るさが不十分なのでもっと明るくしてほしいと言った内容に対して答えていく。すなわち顧客満足度を上げていくということも素直に買い手交渉力を受け入れ、柔軟に対応していくというもう一つの方法論に 当てはまります。

 いかがでしたか。今回は、買い手の交渉力について考えてみました。買い手、すなわち入居希望者や入居者とのいろいろな交渉は、賃貸経営にとって非常に重要なファクターとなります。これらの交渉は得意ではない大家さんは、管理会社さんや不動産仲介会社さんに任せると良いでしょう。自分でやれる方は、やってみると交渉はタフなことも多いですが、入居者さんと仲良くなったりして良いこともあります。次回は供給者の交渉力について考えてみたいと思います。お楽しみに~